シルバー925とサージカルステンレス(316L)の違いとは

近年、「アレルギーが起きにくい」「つけっぱなしでも大丈夫」といった謳い文句とともに、サージカルステンレス(316L)製のアクセサリーを目にする機会が増えてきました。

ここ数年のこうした流れを見てきた中で、いちアクセサリー販売者としての私自身の考えを一度整理し、アクセサリーを愛する皆さまにお伝えできればと思います。

 


もともとアクセサリーの素材は何だったか

シルバー925とサージカルステンレスの素材比較|金属アレルギー対応・価値・特徴を解説(金属アレルギー対応)

これまでジュエリーやアクセサリーには、シルバーやゴールドといった貴金属素材が広く用いられてきました。中でもシルバーは、一定の保存価値を持ち、長く大切にできる素材として親しまれ、肌に優しい点でも「身に着ける価値のあるもの」として長年愛されてきました。

しかし近年、社会構造や経済状況の変化に伴い、人々の価値観や外見への意識も変わってきています。
ファストファッションの影響はアクセサリーにも波及し、「見た目さえ良ければいい」「壊れたら安く買い替えればいい」といった発想のもと、使用される素材にも大きな変化が見られるようになりました。

 初めて見たサージカルステンレスのアクセサリー

ある日、友人が満足そうにこう言いました。
「これはサージカルステンレスだから、アレルギーが起きないし、医療器具にも使われているんだよ。」

でも、そのとき私の頭にまず浮かんだのは——
「えっ?サージカルステンレスって、たしかフライ返しの素材じゃなかった?それがいつの間にアクセサリーになったの?」

もちろん、素材そのものに優劣があるわけではありません。
ただ、ジュエリーに求められる価値や美しさとは、また違った方向性の素材なのではないかと、そのとき強く感じたのです。

しかもその価格は、ほぼシルバーアクセサリーと変わらないものでした。
アクセサリーを扱う立場として、「素材の本質を正しく知ること」の重要性をあらためて実感した瞬間でもあります。

そこで今回、シルバー925とサージカルステンレス、それぞれの素材の違いについて整理し、以下にまとめました。
ぜひ最後までご覧いただけますと幸いです。



サージカルステンレス(316L)とは?

シルバー925とサージカルステンレスの素材比較|金属アレルギー対応・価値・特徴を解説(金属アレルギー対応)

 

サージカルステンレス(一般的にはSUS316L、または316Lと呼ばれる)は、もともと鍋やフライ返し、弁当箱といった日用品や工業部品を製造するために開発された素材です。
耐食性が高く、サビにくく、加工しやすいという実用的な特性から、現在でも多くの量産製品に広く使用されています。

そして近年では、その安価さと「アレルギーに強い」といったキャッチコピーによって、シルバーの代替素材としてアクセサリー業界に広まりつつあります。

しかし実際のところ、貴金属としての価値や気品、再販性といった観点では、シルバーとはまったく別物であり、ジュエリーとしての“格”を持つ素材とは言えません。

本当にアレルギーが起きないのか?

実は、それも大きな誤解です。
316Lには製造上、ニッケル(約10〜14%)が微量に含まれており、これは金属アレルギーを引き起こす代表的な原因金属のひとつです。実際、金属アレルギーを持つ多くの方がニッケルに反応します。

そのため、「アレルギー対応」として販売されている場合でも、完全なノンアレルギー素材ではありません。
特に、ピアスやリングなどのように長時間肌に直接触れるアクセサリーでは、汗や皮脂との化学反応によりニッケルが溶け出し、かゆみや肌荒れなどのトラブルを引き起こす可能性があります。

 

シルバー925とサージカルステンレスの素材比較|金属アレルギー対応・価値・特徴を解説(金属アレルギー対応)

「医療用」素材と呼ばれることの誤解  

最近では「医療級素材」や「サージカルグレード」といった表現を目にする機会が増えていますが、これらの言葉には明確な法的定義や基準は存在していません。

日本の消費者庁や医療機器関連法規によると、316Lはあくまで「一般用途のステンレス鋼」であり、“医療専用素材”として正式に認可されているわけではありません。

「サージカルステンレス」という名称そのものは誤りではなく、316Lが医療器具の一部に使用されている事例もあります。
しかし、実際の医療現場で本格的に使用されているのは、316Lを真空溶解し、不純物を徹底的に取り除いた「316LVM(バキュームメルト)」と呼ばれる高純度医療仕様のステンレスです。

さらに医療分野では、純チタン、高純度金属、セラミックなど、生体適合性と安全性に優れた素材が用いられるのが一般的であり、316Lはあくまでもベーシックな工業用ステンレスに過ぎません。なお、市販の「チタン鋼」アクセサリーは純チタンではなく、チタン含有量はわずか1〜5%程度で、実際はチタン風の表面処理をしたステンレス製がほとんどです。

それにもかかわらず、近年では「316L=医療用」という誤解が広まり、実際以上に安全性や品質が高い素材であるかのように過大評価されるケースが増えています。

つまり、「医療用=高級素材」というイメージは、マーケティングによって作られた誤認に過ぎないということを理解しておく必要があります。

 

本質を見極めることが大切

結局のところ、316Lにしても316LVMにしても、本質的にはどちらも「ステンレス鋼」であることに変わりはありません。
316LVMは医療用として精製された高純度仕様ですが、316Lはあくまで日用品や調理器具などに広く使用される、安価で大量生産向けのステンレスです。

それにもかかわらず、市場では「傷がつきにくい」「変形しない」「硬くて丈夫」といったワードでその硬さを過度に美化し、まるで高級素材であるかのように見せかける表現が多く見受けられます。

しかし、本来ステンレスの“硬さ”は、鍋やフライ返しなどの道具にとっては利点でも、アクセサリーにおいては加工しづらく、着け心地を損ねるなど、かえってデメリットになることもあります。

身につけるものと、消耗する道具は、本来ちがう価値を持つもの。

 


では、シルバー925とは?

シルバー925とサージカルステンレスの素材比較|金属アレルギー対応・価値・特徴を解説(金属アレルギー対応)

シルバー925(スターリングシルバー)は、92.5%が純銀で構成され、残りの7.5%には通常、銅などアレルギーリスクの低い金属が使用されている合金です。

ニッケルを一切含まない「ニッケルフリー」素材として、金属アレルギーに配慮された設計であることが広く知られています。

また、温かみのある上品な輝きと柔らかな質感を持ち、繊細で複雑なデザインにも対応できる高い加工性を備えている点も魅力のひとつです。

その結果、貴金属としての格や再販価値にも優れており、世界中のハイジュエリーブランドでもスタンダード素材として採用されています。

 


シルバー925とサージカルステンレスの比較まとめ

観点 シルバー925 サージカルステンレス
素材の格・価値 貴金属としての価値・再販性がある 実用品ベースの素材。資産価値はない
アレルギー対応 ニッケルフリー。敏感肌にも優しい 微量のニッケル含有。完全対応ではない
加工性と美しさ 柔らかく繊細なデザインが可能 硬くシンプルな造形に限られがち

あなたが大切にしたいものはどちらですか?

たしかに、サージカルステンレスには「水や汗に強い」「海でもつけっぱなしでOK」といった利便性があります。
しかしそれは、水筒やフライ返しと同じく、“消耗品としての素材”であることの裏返しでもあります。

フライ返しが壊れたら、たぶん迷わず捨てるでしょう。
でも、シルバーやゴールドのジュエリーはどうでしょうか?
それは、ずっと手元に残しておきたくなる “価値あるもの” ではないでしょうか。

もしあなたが、大切なものを保管するための保管庫を持っているとしたら、
そこに入れるのは、きっと「フライ返し」ではなく、「ジュエリー」だと思います。

アクセサリーに求められるのは、単なる耐久性ではありません。
肌へのやさしさ、美しさ、長く大切にできること——そして何より、“素材そのものが語る意味” です。

身につけるものは、ただ安くて硬い金属ではなく、
自分を映し出し、肌になじみ、想いや温もりを感じられるものであるべきです。

 


 

この文章を読んでくださった皆さまへ

今回の紹介を通して、シルバー925とサージカルステンレスの違いについて、少しでも理解が深まったのであれば幸いです。

私たちのようなアクセサリーブランドにとって、商品を販売する以前に、お客様が「自分が何を選んでいるのか」をきちんと知るための情報をお伝えすることも、大切な責任のひとつだと考えています。

もちろん、「見た目が気に入ればそれで十分」と思われる方もいるかもしれません。
それでも、素材に関する知識を共有することは、私たち販売者の役割であり、真摯なものづくりの姿勢でもあると信じています。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

 


 

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